日本人と中国人

思い込みがないか,自分の文化を疑ったことはありますか?

目からウロコ

 初めて中国に行った頃(1990年)は西安にもスーパーというものがあまり無くて、毎日の食材などは市場で買っていた。生活感があふれる市場が私は大好きだ。

買い物のしかたも日本と違う。何か買う度にディスカウントをするのだ。つまり値切り交渉である。中国の生活の中に「交渉」はなくてはならないものである。


  しかし何といっても中国人の交渉を初めて目の当たりにしたのはお義姉さんとお土産の景徳鎮のつぼを買ったときのことだ。

日本の常識からいって当然箱に入れてくれるものと思い込んでいたら、そんなものは無いと言う。私が箱を欲しがっているのをお義姉さんが知ると箱に入れてくれと頼んでくれた。店員は案の定

「没有(メイヨウ)」 (ありません)

と言ってきた。私は、そこであきらめてしまった。ところが、お義姉さんはむしろそこから、エンジンがかかったようだ。

「箱をよこしなさい」

と、まくし立て始めた。しかし相手の店員もさるもの。「無いものはしょうがないじゃないですか。」という感じで一歩も引かない。私が「お義姉さんもういいです。」と示すと「いいからあなたは黙っていなさい。」とたしなめられ、もう私のことなんかそっちのけで交渉だ。
あのこのつぼを買ったの私なんですけど・・・。それにたかが箱のことぐらいでそんなに熱くならなくても・・・・。だいたい「無い」といってるのに無理に決まっているじゃないですか・・・。いったいいつまで続けるの・・・?
激しいやりとりは、いつまでも続くかと思われたが、突然店員があきらめたように箱を裏から出してきた。


え?箱、あったの?


何かものすごいものを見てしまった・・・という感じだ。生まれて初めて生の交渉に立ち会ったのだ。日本では見たことがない。買い物はいつも表示された価格を支払った。苦情を言う事も言われる事もほとんど無い。何か頼まれれば本当はいやでもOKしてしまうことが多かった。出された食事のごとく、何でも言われたまま受け取って来た。


まさに目からウロコ。人はこうやってやりとり(交渉)することができるんだ・・・・

とものすごい真理に目が開かれたような気分だった。今まで自分がいかに何も主張せず、言われたままに生きてきたか・・・自分の姿をはっきりと見た思いがした。


お義姉さんは戦利品(?)を私に手渡すとニヤリと微笑んだ。得意満面である。お店の人だって結局笑っている。なんだかとっても楽しいし、明るい!


それまで夫の交渉好きや負けず嫌いの態度がどうしても理解できなかったし、変だと思っていた。しかし中国では交渉するのが普通である。この事件をきっかけに、中国人を理解するようになっていった。


ようするに夫はただの中国人だったということか!