日本人と中国人

思い込みがないか,自分の文化を疑ったことはありますか?

没有(メイヨウ)

 初めての中国(1990年)は私にとって正にワンダーランド、異文化そのものだった。

何もかもが日本と違って目に入るものすべてが新鮮に映った。空港から降りて中国の街に踏み入ったときはなんともいえない感動があった。

まず、人々の様子が日本と全然違う。何というか、ものすごくエネルギッシュである。行き交う無数の自転車や街を歩く人にも活力を感じるし、話している人もけんかをしているのか?と思うほどパワフルだ。街全体から「赤く燃える火」を感じさせる国である。
 さて、外国に来たら何といっても、お楽しみは買い物である。私は普段中国の人が食べているものとか、使っている日用品に興味津々であった。夫と共にデパートに入ってみた。デパートの様子も日本とはだいぶ違う。照明が少なく中が若干暗いのが印象的であった。
 そこで、中国の刷きやすいカンフー靴を買おうと靴売り場のウインドウを覗いていた。適当なのがあったので、手にとって見るため、夫に頼んで「見せてください」と言ってもらった。ところが・・・そのときその売リ場の女性からきた答えは


 「没有(メイヨウ)」


メイヨウ?どういう意味?夫は「ないって言ってるよ。」
 「はあ?ないって言ったって、ここにあるじゃない。おまけに今の言い方は何?こっちを向きもしないで」夫は、複雑な表情をしている。今度は少し、強い調子で、見せてくださいと頼んだ。するとそのカンフー靴を投げるようにしてよこしてきた。


頭にきた!態度悪すぎ!


 こんなショックなことが、買い物をする度に起った。いったいどうなってんの?私が何かいけないことしているのかな?キツネにつつまれたような気分であった。

何日もたってから理由を知った。初めて中国に行った1990年頃はデパートやお店もみな国有企業ばかりである。国有企業の体質はどこの国も同様で、いくら働いたってお給料はよくならないので、仕事は熱心ではない。(読者の中に公務員の方がいたらごめんなさい)それが、中国では徹底されていたのだ。それで、お店では、買う客には、応対するが、見るだけの冷やかし客には応対しないということなのだ。
 うーん、なるほど・・。と感心している場合ではない。日本では考えられないことだが、どこに行っても同じことを言われるので、おかげで私が、中国に来て初めて覚えた言葉は、
「没有(メイヨウ)」つまり、「ありません。」という言葉だった。


最近は中国も経済開放政策で、随分と変わった。4年ほど前(1998年)中国に行ったとき、デパートのおね-さんに、「どれかご覧になりますか?」とニッコリされたときは、あまりの変貌振りに息を呑むほど感心したものだ。

 今となってみると笑い話でもあり、貴重な体験だったと思うが、忘れようにも決して忘れられない、

中国第1章を飾る出来事であった。